弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 権田 健一郎

はじめに

子どもの間で行われるいじめについて定めた法律として、いじめ防止対策推進法という法律があります。
いじめ防止対策推進法とは、子ども同士で起こるいじめを防止することを目的に、2013年に施行された法律です。2011年に大津市の男子生徒がいじめを受け自殺したことをきっかけに制定されました。

いじめ防止対策推進法で定めている主なポイントは以下の7つです。
1.いじめの定義化
2.いじめ被害者の保護
3.インターネットを介したいじめに対する対策
4.学校側のいじめ調査・情報提供義務
5.教育委員会・地方公共団体のへの報告義務及び地方公共団体の長による再調査
6.いじめ加害者への処分
7.いじめを防止する道徳教育の義務

あなたの子どもをいじめから守るためにも、「いじめ防止対策推進法」を把握し対応を考える必要があります。この記事で紹介するポイントは以下の通りです。
•いじめ防止対策推進法の内容
•2017年に行われた「いじめの防止等のための基本的な方針」の改定のポイント
•いじめ防止対策推進の問題点
•いじめ問題を相談できる電話・チャット窓口

いじめ防止対策推進法の内容

ここでは、冒頭でご紹介した「いじめ防止対策推進法」で定められている、以下の7つのポイントについてご紹介します。
1.いじめの定義化
2.いじめ被害者の保護
3.インターネットを介したいじめに対する対策
4.学校側のいじめ調査・情報提供義務
5.教育委員会・地方公共団体のへの報告義務及び地方公共団体の長による再調査
6.いじめ加害者への処分
7.いじめを防止する道徳教育の義務

(1)いじめの定義化

法律としては初めて「いじめ」の定義を設け、児童等のいじめを明確に禁止しました。
簡単にいうと、行為の対象となった児童が心身の苦痛を感じるものが「いじめ」とされ、被害者の主観によって判断されることが明確にされました。
いじめのケースでは、加害者としては、ふざけていただけでありいじめたつもりはない・被害者が傷つくとは思っていなかったというようなことが主張されることがありますが、このような主張は通用しないこととなったのです。
そのため、被害者をより厚く保護するための法律といえるでしょう。

また、この法律が問題とするいじめとしては、子どもの間で行われるものとされました。
そのため、例えば、教師などの大人が子供に対して行う行為は、この法律上はいじめにあたりません。

(2)いじめ被害者の保護

いじめが見つかったら、被害者と被害者の保護者のケアをすることが義務になっています。
例えば、カウンセラーとの相談機会を設ける・いじめ加害者に別の教室で勉強させる・生命や身体の安全が危ないときは警察に通報するなどです。こうした取り組みによって、被害者や保護者のサポートをする義務を定めています。

(3)インターネットを介したいじめに対する対策

いじめ防止対策推進法の第19条・第20条では、SNSなどインターネットを介して行われるいじめに対しても学校・親が指導し、防止に努めるよう定められています。
また、実際にいじめに遭ってしまった場合、発信された情報の削除や発信者を特定するための協力を法務局または地方法務局に求めることができることも記載されています。
昨今は、対面のいじめだけでなく、SNSなどのインターネット上でのいじめが増えていることから、そのようないじめに対応するために明文化されました。

(4)学校側のいじめ調査・情報提供義務

いじめの相談があったり、いじめが疑われるようなことがあったりした場合は、学校側がいじめの事実を調査することが義務とされています。また、一定の重大事態に該当する場合には、速やかに、当該学校の設置者又はその設置する学校の下に組織を設け、調査を行うことが義務付けられています。
実務では、調査の公平性・中立性の観点から、第三者委員会が立ち上がることが多くあります。また、調査結果は、いじめを受けた被害者や保護者に対して情報提供するものとされています。しかし、後述しますが、いじめの調査方法が具体的に定められていないという問題点があります。

(5)教育委員会・地方公共団体への報告義務及び地方公共団体の長による再調査

学校側は、いじめの重大事態があった場合、教育委員会を通じて地方公共団体の長に報告し、地方公共団体の長は、いじめの再調査を行ったり、また、地方公共団体の長や教育委員会は、再発防止のための措置を取ったりすることが決められています。

(6)いじめ加害者への処分

いじめの加害者に対する処分として、停学処分や出席停止などが認められています。
しかし、処分をするかどうかについては、第一次的には、校長や教員、教育委員会の判断となるため、加害者の教育を受ける機会などに配慮がなされ、加害者が厳重な処分を受けないことが多いのが現状です。

(7)いじめを防止する道徳教育の義務

いじめ防止のために、いじめの定義や、「いじめは犯罪である」、「人としていけないことである」ということを教え、「やさしさ」や「思いやり」を育むような道徳教育が義務と定めています。
実際には、いじめを題材にした道徳の授業を行ったり、ビデオを視聴したり
するなどの試みが行われています。
また、弁護士が学校に出張して、いじめ防止授業を行うなどの取り組みも増えています。

2017年に行われた「いじめの防止等のための基本的な方針」の改定のポイント

いじめ防止対策推進法に関連し、文科省は基本的な方針を定めており、2017年3月14日に以下の部分が改訂されました。

(1)いじめの認知に関する変更

改正前は、「けんかやふざけ合い」がいじめの対象ではありませんでしたが、被害者がいじめだと感じる「けんかやふざけ合い」をいじめの対象に含めることが決まりました。これにより、いじめの定義が以前より広がり、今まで「ただのけんかだった」「ふざけていただけ」と対象外になっていたいじめも対象になったのです。
いじめ防止対策推進法の根底には、被害者が傷付いたかどうかでいじめを判断するという思考があるのです。
そのため、今まで対応できていなかったいじめについても、対応できるようになりました。

(2)学校のいじめ対策・いじめの情報共有の義務化

学校の教職員がいじめを発見した場合などは、学校内で情報を共有し、学校全体で対策を取ることが原則になりました。これにより、教師全体でいじめ問題の解決に取り組み、複数人による状況判断からの支援が可能になります。
これに伴い、学校では教職員が情報を共有しやすい環境を整えることが重要になります。また、報告・情報共有を怠った場合、教育委員会から懲戒処分を受けることもあり得ます。
これまでのいじめの事案を見ても、学校による組織的な対応が適切になされなかったがために事態が悪化してしまったということが少なくありません。そのため、いじめへの対処には学校による組織的な対応が求められているのです。

(3)いじめの未然防止・早期発見できるよう指導の強化・変更

いじめの未然防止として、未就学児・幼児期においても相手を尊重した行動が取れるよう指導を行うことや、授業においていじめを題材に取り上げ、生徒ひとりひとりが考え、議論できるような取り組みを行うことが定められました。
早期発見に関する改定では、スクールカウンセラーやソーシャルワーカーの配置、いじめに関するアンケートの実施、子どもに周囲に相談することの重要さを理解させる取り組みなどが定められました。

(4)いじめへの対処の変更

いじめの再発確認期間を延ばしたり、いじめ後の被害者との面談などを実施したりすることが義務化されました。いじめの再発を防止する動きが強まったと言えます。
そのほかにも、被害者が、発達障害者や帰国子女・性同一性障害者・避難民などの場合に応じて、個別の対応をすることや、いじめ問題に対応するために、弁護士や教育委員会から派遣されるカウンセラーとの連帯を強めていく方針などが決められました。

(5)重大事態へ対応できる組織の設置

重大ないじめ問題が発生した場合、調査・判断できるように学校や地方自治体では、専門組織を設置することを推奨しています。また、学校だけではなく、地方自治体や教育委員会が連携できるような体制を整えることが重要です。
いじめについては、組織的な対応が必要不可欠ですので、この規定は非常に重要といえます。

いじめ防止対策推進法の問題点

いじめ防止対策推進法に関して、2017年の基本方針の改正後も問題点が多いという指摘があります。実際、改正後もいじめはなくなっていません。以下は、いじめ防止対策推進法の主な問題点です。

(1)教員や学校に対する罰則がない

いじめ防止対策推進法では、加害者に対する任意の処分は規定されていますが、教員や学校に対する罰則が定められていません。そのため、いじめへの取り組みが甘くなってしまうというという難点があります。
これには、そのような罰則を設けると、現場の教員が委縮し、教育活動に悪い影響が出るというような考えもあるようです。
この点については、現場の教職員がどこまで責任を負うべきか議論が必要であり、必ずしも一教員だけの問題とは限りませんが、現にいじめを放置されている事案もありますので、改正論議が行われております。

(2)自治体によって対応に差がある

いじめ防止対策推進法では、学校や地方公共団体が連携していじめ問題へ対処することが取り決められていますが、地方公共団体によっては、いじめ問題への取り組みが甘いという指摘があります。そのため、いじめが発生、放置されやすい地域があると言わざるを得ません。

通常、県や市などの自治体ごとにいじめへの対応などを定めた基本方針が設けられていますが、それらの方針に沿って適切な対応が行われるかどうかは各自治体に委ねられます。
実際に発生しているいじめのケースでは、残念ながら、基本方針に沿った適切な対応が自治体によって行われていないことも少なくありません。
いじめ防止を実効的に行うためには、各自治体が基本方針を遵守することが非常に重要であり、それを可能にする統一的な規定の制定が期待されます。

(3)いじめの調査方法に決まりがない

いじめ防止対策推進法では、いじめの調査を義務化していても、調査方法を具体的に決めていないので、地域によっていじめの認知数に差が出てしまいます。
例えば、2017年の調査によれば、いじめの認知件数の都道府県格差は最大で19倍とされています。上述したとおり、いじめ防止対策推進法では、教員・学校に対する処罰が定められていないため、いじめに対する対処が後回しにされたり、調査内容が不充分であることもあるかもしれません。
(2)でも述べましたとおり、この点については、すべての自治体に適用されるような統一的な規定が必要でしょう。

(4)いじめが「トラブル」で済まされてしまう可能性がある

いじめとは、特定の子どもが心理的・物理的に攻撃される行為のことです。周囲がいじめと感じないような行為であっても、加害者がいじめと感じたらいじめになります。
しかし、前述した通り、加害者への処分が義務化されていなかったり、教員・学校への処分が明確に定められていなかったりするので、いじめが単なるトラブルとして扱われ、十分な対応をしてもらえないこともあります。
いじめが子どもの間で行われることも原因かもしれません。子ども同士のことなのだからそこまで大事にせず、内々に解決しようという心理が教育現場にあるのかもしれません。
実際、2019年3月には、広島の学校で重大ないじめがあったにもかかわらず、学校側が重大事態として扱わなかったことが問題とされた事案もあります。
しかし、いじめを「トラブル」という言葉で済ませてはいけません。
いじめは時に被害者の生命を奪ったり、身体を深く傷つけてしまったりするものであり、刑事事件とも同等以上の被害を発生させる可能性があるものです。
このように、学校によっては、必ずしも、いじめ防止対策推進法や文科省の通達等の想定する対処が執れていない事案も散見されるため、いじめを根絶するにはまだまだ長い道のりになると思います。

いじめ問題を相談できる窓口

いじめは放っておくと悪化する傾向があるので、早期発見・対応することが重要になってきます。子供がいじめに遭っていることがわかったら、お早目に専門窓口に相談して解決策を練りましょう。

(1)弁護士

暴力や窃盗などのいじめに遭ったり、学校に相談しても解決しなかったりした場合は、弁護士に相談するのも手です。
いじめで弁護士というと大げさに感じる方もいるかもしれませんが、いじめの相談件数は増加していますし、いじめ防止対策推進法でも、弁護士との連携を強める方針が決まっています。弁護士なら法的知識をもっていじめを解決してくれるので、一度相談してみてもよいでしょう。

(2)チャイルドライン支援センター

チャイルドライン支援センターは、18歳以下の子どもが利用できる相談窓口で、電話とオンラインチャットで無料相談を受け付けています。いじめが深刻でなかったり、学校に相談しづらかったりする場合などは、子どもに利用を勧めてみるとよいでしょう。

(3)法務省人権擁護局

法務省人権擁護局は、「子どもの人権110番」という電話相談窓口や、「インターネット人権相談受付窓口」というメール相談受付窓口を設けています。大人も子供も利用できるのが特徴で、相談時は最寄りの法務局・地方法務局に繋がるので、いじめ問題を学校以外に訴えたい場合などに利用するとよいでしょう。

(4)学校

学校でいじめに遭った場合は、学校に相談すると、早く対応できると考えられます。いじめを早急に解決したいなら、担任の先生や専属のカウンセラーの先生に相談してみましょう。
ただし、学校側はいじめを大ごとにしたがらないこともあるので、対応してもらえなかったり、問題が複雑化したりする恐れもあることを覚えておいてください。

(5)弁護士会の相談窓口

弁護士会によっては、いじめに関する電話相談や対面での相談を実施していることがあります。いきなり弁護士の事務所に行って相談するのは心理的なハードルもあるかと思いますので、まずはこのような窓口で気軽に相談してみることも良いでしょう。

まとめ いじめ問題の相談は弁護士へ

いじめ防止対策推進法では、いじめ防止に向けた取り組みや、いじめ発生後の対応などが規定されています。2019年4月現在も法改正の議論がされており、今後、いじめ問題への取り組みが改善されることが期待されます。
しかし、法律は必ずしも完璧なものとはいえず、完全な抑止力にはなりません。上述したとおり、学校や地域によって取り組みに差も出ているのが現状です。
いじめで悩んでいる・学校があまり対応してくれない場合などは、まずはお気軽に弁護士にご相談ください。弁護士であれば適切な法的アドバイスができますし、相談者の方の状況に応じた対応を行うことができます。