弁護士法人グリーンリーフ法律事務所
弁護士 時田 剛志

いじめとは?

「いじめ」とは、学校に在籍している生徒間で起こる、相手に身体的・精神的苦痛や影響を与える行為です。
相手が傷ついたらいじめです。

1回だけでも、1対1でも、加害者にいじめている自覚がなくても、被害者が精神的・肉体的に苦痛と感じた場合は、それらの行為はいじめになります。

いじめは、小学校・中学校・高校を合わせると、年間73万件(令和5年文科省調査によるいじめ認知件数)も発生しております。

そのうち、重大事態となった件数は、約1300件あります。

あなたの子どもがいじめに関わっていてもおかしくはありませんし、重大事態としての被害・加害に関わる可能性があります。

現状の分析~いじめの実態を知る~

いじめの認知件数の推移
(文科省HPより)

このように、小学校におけるいじめの件数がとても多く、次いで、中学校・高校となります。
しかし、次のグラフにあるように、重大事態の件数は、いじめ認知件数ほどの開きはなく、むしろ、中学校、高校で多く発生しております。

このことから分かるのは、中学校、高等学校に上がるにしたがって、いじめが重大化・深刻化する可能性が高くなる傾向にあるとも言えます。

重大事態の発生件数
(文科省HPより)

いじめに直結する可能性の高い「暴力行為」については、統計上、このような結果があります。
加害児童生徒数
(文科省HPより)

とても悲しいことですが、「自死」に至る件数はこちらです。
令和5年度でみると、小学校では11名に対し、中学校では126名、高等学校では260名と、年齢が上がるにつれて自殺件数が増えているのが明らかに分かります。
自死児童生徒数

この結果をいじめ認知件数と比較しますと、このようになります。

この図からわかるように、いじめの認知件数は小学生が最も多く、中学、高校になるにつれ件数が減少します。一方で、暴力件数は認知件数との対比において進学につれて増えている傾向にあり、自死に至っては進学につれて増加の一途を辿ります。高校生のいじめが最も深刻であるともいえます。

「仲間はずれ、集団による無視」については、認知されたいじめのうち、高校生が最も多い比率を示しており、「集団いじめ」の発生が考えられます。

これらの認知件数等は、学校が認知した結果に基づいて計算されているので、実際には、暗数として、もっと多くのいじめが発生している可能性も捨てきれません。

いじめによる悲劇を防ぐため、周りの大人、特に、親が、いじめに関わる子どもの発するサインを見逃さないことが大切になります。

SNSによるいじめの特徴

男女別でいじめの内容に若干の差があるといわれています。
男子間では、「悪口・からかい」に次いで「殴る・蹴る」といった暴力が多く、女子間では「仲間外れ・無視」「悪口・からかい」といったコミュニケーションによるものが多いといえます。
殴る蹴るなどの粗暴な行為に比べて、仲間外れなどは表面化しにくいことから、女子のいじめはより発見されにくいと考えられますので、注意が必要です。

また、SNSやインターネットを介したいじめが表面化しにくい一方、被害が深刻化、拡大しやすいのもとして挙げられます。写真や卑猥な画像をばらまかれるなど、思春期の子どもにおいてとくに絶望感を与え、最近では「デジタルタトゥー」というような言葉があるように、取り返しのつかないものと考え、自分を追い込んでしまう傾向があります。北海道旭川市のいじめによる女子中学生凍死という極めて痛ましい事例が生じているのも、残念でなりません。

LINEのグループ外しやステータスメッセージにおける特定の子に向けた悪口などもあり、ギガスクール構想によるタブレットを用いた嫌がらせに至るなど、いじめも悪い意味で多様化しているのが現状です。

こうしたSNSが用いられたいじめは、相手が特定できない、情報が拡散してしまい二次三次被害に繋がるなど、被害者を追い詰めやすいものですから、断固とした姿勢で対応する必要があります。

いじめを見逃さない~子どもの見逃しやすいサインに注意する~

いじめ被害の深刻化を食い止めるためには、親御さんの観察が欠かせません。被害者・加害者の子どもは、時に何らかのサインを発しています。被害に遭っていることを告白することは非常に心理的な壁があり、親から見られる自分が惨めにみられたくないなどの感情により言葉にできず、一人で苦しんでしまうケースも多くあります。
以下では、被害者の子どもに見られる特徴を紹介しますので、ご自身のお子様に当てはまるかどうか、チェックしてみてください。

登校するまでのようす

 •朝、なかなか起きてこない。
 •いつもと違って、朝食を食べようとしない。
 •疲れた表情をしている。ぼんやりとしている。ふさぎこんでいる。
 •登校時間が近づくと、頭痛や腹痛、発熱、吐き気など体調不良を訴えて登校を渋る。集合場所に行きたがらない。
 •友達の荷物をもたされている。
 •一人で登校(下校)するようになる。遠回りをして登校(下校)するようになる。
 •途中で家に戻ってくる。

日常における家庭生活の変化

 •服のよごれや破れ、からだにあざやすり傷があっても理由をいいたがらない。
 •すぐに自分の部屋にかけこみ、なかなか出てこない。外出したがらない。
 •いつもより帰宅が遅い。
 •電話に出たがらない。
 •お金の使い方が荒くなったり、無断で家から持ち出すようになったりする。
 •成績が下がり、書く文字の筆圧が弱くなる。
 •食欲がなくなる。ため息をつくことが多くなる。なかなか寝つけない。

持ち物の変化

 •自転車や持ち物などがこわされている。道具や持ち物に落書きがある。
 •学用品や持ち物がなくなっていく。買い与えた覚えのない品物をもっている。

友人関係の変化

 •遊んでいる際、友達から横柄な態度をとられている。友達に横柄な態度をとる。
 •友達の話をしなくなったり、いつも遊んでいた友達と遊ばなくなったりする。
 •友達から頻繁に電話がかかってきて外出が増える。メール(ブログなど)を気にする。
 •いじめの話をすると強く否定する。

家族との関係の変化

 •親と視線を合わせない。
 •家族と話をしなくなる。学校の話をさけるようになる。
 •親への反抗や弟や妹をいじめる、ペットにやつあたりする。
(茨城県教育委員会のチェックリストを抜粋)

では、加害者の子どもはどうでしょうか。
被害者よりも特徴が出にくく、周囲がいじめを行っていることに気づくのは稀ですし、大人の前では「いい子」を演じている場合もあります。
加害であることは、学校から連絡を受け、初めて子どもが加害者だと判明することも多く、つい、加害といわれて感情的になることもあるかもしれません。しかし、そこは落ち着いて、最近の様子を振り返ってみましょう。

いじめている子のサイン(加害者の視点)

 ・険しい表情をするようになる。
 ・お金の使い方が荒くなる。
 ・言葉遣いが悪くなる。
 ・買った覚えのない物を持っている。
 ・与えたお金以上のお金を持っている。
 ・お小遣いでは買えない物を持っている。
 ・友達を軽蔑するような発言が増える。
 ・友達との間に上下関係が感じられるようになる。
 ・交友関係が変化し,今までと違った雰囲気の友達と付き合うようになる。
 ・親の言うことを聞かなくなり,反抗的な態度をとるようになる。
 ・家族との会話が減ったり,意図的に学校や友達の話題を避けたりするようになる。
 ・親が自分の部屋に入るのを極端に嫌がるようになる。
(東金市HP参照)

ご自分の子どもが、被害者・加害者かもしれないと思ったときは、子どもを優しく問いただしてみましょう。
決して感情的になったり、「いじめられている(いじめを行っている)のは嘘だよね?」といったように誘導尋問したりしないでください。
聞くときは、子どもが安心できるように、冷静に優しく接することが大事です。

子どもがいじめに関わっていると知った親は介入するべきか?

子どもがいじめの被害者・加害者であった場合、親はどのように対応すべきでしょうか。
結論から申しますと、決して放置はせず、介入する必要があります

・子が被害者かもしれないケース

子どもがいじめられているかもしれないときは、まずは直接、落ち着いて、子どもに話を聞いてみましょう。考えるべきは、子どもの気持ちです。親は、どのような方法でいじめを止めさせたり適切に対処することができるのか、選択肢を与えつつ、子どもと一緒に方針を決断していく必要があります。
相談先はいくつかありますが、まずは学校、場合により教育委員会に相談を進めることが重要です。そのうえで、外部の専門家、弁護士などに相談するのも望ましいといえます。

子が登校を嫌がる場合や身体的症状が現れた場合、死を連想する言葉を発するような場合には、無理に登校させず、または学校とも相談しながら保健室等の子どもにとって安心できる場所にのみ登校させることも考えましょう。
子どもは、親が味方でいてくれることで安心感を持てます。絶対に、子どもを頭ごなしに責めたりしないでください。また、親御さんの経験談から無理を強いることは控えるようにしてください。

・子が加害者のケース

子どもが加害者である場合にも親が介入するべきです。
直ちに、指導を行い、いじめの正しい理解のもと、いじめをやめるように徹底してください。同時に、被害者に対する謝罪の気持ちを醸成することを忘れないようにしましょう。
一方で、子どものいじめは、固定化しているとは限らず、立場が入れ替わり、いじめていた側がいじめられる側になるということも考えられます。また、いじめ加害といわれていた子も傷ついていたということもあります。
そのため、頭ごなしに叱るのではなく、言い分などもしっかりと聞いてあげることが再発防止に繋がるといえます。

いじめの相談窓口

いじめ問題は、親子だけでも抱え込んではいけません。
適切な機関に相談しながら、適切なアドバイスをもらったり、解決を図ってもらったりしてください。

・学校

学校には、必ずや、いじめ防止基本方針があります。
その内容に沿って、「いじめ防止対策委員会」などのいじめ対策の機関が定められているはずです。
担任、学年主任、教頭、校長など、いじめの相談をしてみてください。
組織的対応、いじめ防止対策推進法に従った法的対応を求めていただき、対応に疑問があれば、遠慮なく、別の機関にも相談をしてみましょう。

・学校の設置者(教育委員会ほか)

学校の市区町村と都道府県に、教育委員会があります。
教育委員会は、いじめや教育に関する相談窓口を設けております。
また、埼玉では、以下のような相談窓口が存在します。

埼玉県HPより

彩の国 よりそうみんなの電話・メール教育相談(埼玉県立総合教育センター)
県内の小・中・高校生・青少年(原則として18歳まで)のいじめ、不登校、学校生活、性格、性自認・性的指向などに関する相談を行っています。
彩の国 よりそうみんなの電話・メール教育相談はこちら

SNSを活用した教育相談
県内の学校に在籍する中学・高校生のいじめ、不登校、学校生活などの様々な悩みに関するSNS相談を行っています。
SNSを活用した教育相談はこちら

いじめ通報窓口
いじめを受けている、または、他の子がいじめを受けていることを知っている小・中・高校生や保護者等からの情報提供を受け付けています。
いじめ通報窓口はこちら

ネットパトロール通報窓口
県内公立学校の児童生徒に関するネットいじめやネットトラブルの情報提供を受け付けています。次の情報を教えてください。
•学校名
•サイト名又はURL
•パソコンサイト、携帯サイトの別
•問題のある書込みの内容(簡潔に)
•その他(情報提供の理由など)
ネットいじめ・ネットトラブルなどの通報窓口はこちら

さいたま市いじめ・非行相談窓口


さいたま市いじめ・非行相談窓口はこちら

弁護士(法律事務所)

以下のような場合は、思い切って弁護士に相談することをおすすめします。
・学校側が対応してくれない
・教育委員会が動いてくれない
・被害が重大である
・保護者同士で解決できない
・犯罪の可能性がある

埼玉弁護士会では、子どもホットラインという電話相談も用意しています。
相談日時:毎週火・木曜日:午後3:00~午後6:00
※祝日・年末年始を除く
子ども弁護士ホットラインはこちら

文部科学省

子供たちが全国どこからでも、夜間・休日を含めて、いつでもいじめやその他のSOSをより簡単に相談することができるよう、全都道府県及び指定都市教育委員会で実施。下記のダイヤルに電話すれば、原則として電話をかけた所在地の教育委員会の相談機関に接続。
24時間子供SOSダイヤルはこちら

文部科学省は、いじめについて相談できる窓口を用意しています。また、地方公共団体によっては、電話窓口だけでなく、ラインでいじめの相談を受け付けているところもあります。学校に相談することに抵抗がある方や、学校に相談しても解決しない場合は、こういった窓口に相談するとよいかもしれません。
なお、相談時の費用負担は、ほとんどの場合通話料のみなので、気軽に利用してみてください。

警察(捜査機関)等

警察は、「少年相談」などのいじめの相談窓口も設置しています。
また、さいたま少年鑑別所 (教育相談センター) 法務省矯正局は、相談窓口を設置しています。
相談区分 子ども
電話:048-864-2213月~金 9:00~16:00
面談:048-864-2213月~金 9:00~16:00
ホームページ:https://www.moj.go.jp/kyousei1/kyousei_kyouse06.html
(法務省HPより)

まとめ

子どもを救えるのは親の早急な対応です!
いじめは、大人の目の届かないところで行われます。
いじめを見逃し、または放置した場合、自然と加害者が増え、事態が悪化する傾向があります。
逃げ場がなくなった子どもは、最悪の場合、命を絶ってしまいます。
最悪の結末を迎えないためにも、親の早急な対応が必要です。

いじめに関わっている子どもは、何かしらのサインを出しているので、しっかり気づいてあげることが第一歩となります。

「私の子どもは大丈夫」
このような考えが後悔に繋がらないようにしましょう。

もしあなたの子どもが、被害者・加害者であるとわかったら、冷静になって適切な対応をしましょう。解決に伴い、被害者・加害者のどちらの場合であっても、精神的なケアが必要になります。

もし、慰謝料請求や傷害事件に発展した場合は、個人で対応するのではなく、弁護士に相談してみましょう。